専門職大学院とは 学校教育法に定めた「専門職大学院設置基準等」に基づいて認可された大学院です。日本の専門職大学院制度は、アメリカのプロフェッショナル・スクールを参考に平成15年に導入されました。
専門職大学院は高度の専門性が求められる職業人をつくるための制度設計
専門職大学院 の目的は「大学院のうち、学術の理論及び応用を教授研究し、高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うこと」(学校教育法第99条第2項)です。一定数の実務家教員の配置や5年ごとに認証評価機関による審査を受けることが義務付けられています。
専門職大学院は「理論と実務との架橋」となれるか?
「理論と実務との架橋」となるべく専門職大学院制度はスタートしました。設立背景には学術的な理論の研究や教育に重心が掛かり過ぎていた旧来の大学院教育のアンチテーゼがありました。具体的には研究者教員に実務家教員を加えることで、それぞれが連携して理論と実務を結びつける教育が行われることを狙っています。
従来型の修士課程と専門職学位課程と2つの制度が生まれる結果に
従来からあった経営系大学院の修士課程があったところに、新たに生まれた専門職大学院の専門職学位課程が生まれ、結果として2つの制度が並立して存在する状態になりました。例えば神戸大学では「神戸大学 MBA (経営学研究科現代経営学専攻)は、日本でも数少ない「経営系専門職大学院」であり、神戸大学の中でも一般大学院である経営学研究科とは独立した別個のコースとなっています」と公式サイトで明示しているとおり、2つの制度を同じ大学内に持つ事例もあります。
従来型の修士課程を提供する経営系大学院も多い
専門職大学院制度を活用せずに、従来からの 博士課程を提供する経営系大学院も多く存在します。
■国公大学では、筑波大学大学院ビジネス科学研究科、横浜国立大学大学院国際社会科学研究科、東京都立大学大学院経営学研究科、大阪大学大学院工学研究科、埼玉大学経済経営系大学院、岡山大学大学院社会文化科学研究科、長崎大学大学院経済学研究科、北海道大学大学院経済学研究科など。
■私立大学では立教大学大学院ビジネスデザイン研究科及びビジネスデザイン研究科、法政大学大学院経営学研究科、多摩大学大学院経営情報学研究科、日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科、東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科、金沢工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科(K.I.T.虎ノ門大学院)、大阪経済大学大学院経営学研究科などがそれぞれ従来型修士課程に分類されます。
では専門職大学院はどこなのか?という点については文末に記します。
専門職大学院は経営&技術経営、法科、教職、会計、公共政策などがある
話を専門職大学院に戻します。専門職大学院には、①経営(MBA)&技術経営(MOT)、②法科大学院、③教職大学院、④会計専門職大学院、⑤公共政策専門職大学院の5種別があります。
さらに①は2つ区分されます。ひとつは経営修士(専門職)や経営管理修士(専門職)等の学位が授与される経営大学院。もう一つは技術経営修士(専門職)などの学位が授与される技術経営(MOT)です。
経営&技術経営の専門職大学院は2年間を標準的が学修年限として、修士論文を必ずしも求めていないところが特徴です。詳細は以下を参考にしてください。
(1)標準修業年限
・2年(法科大学院は3年)
(2)修了要件
・30単位以上 ※法科大学院は93単位以上、教職大学院は45単位以上が基本
・一般の修士課程と異なり、論文作成を必須としない
(3)教員組織
・必要専任教員中の3割以上は実務家教員 ※法科大学院は2割以上、教職大学院は4割以上
(4)教育内容
・理論と実務の架橋を強く意識した教育を実施
・事例研究や現地調査を中心に、双方向・多方向に行われる討論や質疑応答等が授業の基本
(5)学 位
・○○修士(専門職) (例)経営管理修士(専門職)、会計修士(専門職) 等
(6)認証評価
・教育課程や教員組織等の教育研究活動の状況について、文部科学大臣より認証を受けた認証評価団体の評価を5年以内ごとに受審することを義務づけ、教育の質保証を図る仕組みを担保。

経営系の専門職大学院は、国内に32の大学院・研究科がある
経営系の専門職大学院に関してその数を調べると 国立12校、公立3校、私立16校、株立1校の合計32校が存在しています。授与している学位も 経営管理修士(専門職) 、 国際経営修士(専門職) 、 技術経営修士(専門職) 、 システム安全修士(専門職)、 国際地域マネジメント修士(専門職) など多岐にわたっているのが現状です。定員の総計は3074名。学校別定員を確認をすると、グロービス経営大学院大学の1050名が最大、福井大学大学院の7名が最小で、規模には幅があります。
設立 | 大学院名称 | 研究科/専攻 | 学位 | 定員 |
国立 | 小樽商科大学大学院 | 商学研究科 アントレプレナーシップ専攻 | 経営管理修士(専門職) | 35 |
国立 | 筑波大学大学院 | 人文社会ビジネス科学学術院 国際経営プロフェッショナル専攻 | 国際経営修士(専門職) | 30 |
国立 | 一橋大学大学院 | 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 | 経営修士(専門職) | 58 |
国立 | 東京農工大学大学院 | 工学府 産業技術専攻 | 技術経営修士(専門職) | 40 |
国立 | 東京工業大学大学院 | 環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程 | 技術経営修士(専門職) | 40 |
国立 | 長岡技術科学大学大学院 | 技術経営研究科 システム安全専攻 | システム安全修士(専門職) | 15 |
国立 | 福井大学大学院 | 国際地域マネジメント研究科 国際地域マネジメント専攻 | 国際地域マネジメント修士(専門職) | 7 |
国立 | 京都大学大学院 | 経営管理教育部 経営管理専攻 | 経営学修士(専門職) | 100 |
国立 | 神戸大学大学院 | 経営学研究科 現代経営学専攻 | 経営学修士(専門職) | 69 |
国立 | 山口大学大学院 | 技術経営研究科 技術経営専攻 | 技術経営修士(専門職) | 15 |
国立 | 香川大学大学院 | 地域マネジメント研究科 地域マネジメント専攻 | 経営修士(専門職) | 30 |
国立 | 九州大学大学院 | 経済学府 産業マネジメント専攻 | 経営修士(専門職) | 45 |
公立 | 兵庫県立大学大学院 | 経営研究科 経営専門職専攻 | 経営管理修士(専門職) | 45 |
公立 | 〃 | 〃 | ヘルスケア・マネジメント修士(専門職) | 0 |
公立 | 県立広島大学大学院 | 経営管理研究科 ビジネス・リーダーシップ専攻 | 経営修士(専門職) | 25 |
公立 | 北九州市立大学大学院 | マネジメント研究科 マネジメント専攻 | 経営学修士(専門職) | 30 |
私立 | 青山学院大学大学院 | 国際マネジメント研究科 国際マネジメント専攻 | 経営管理修士(専門職) | 100 |
私立 | グロービス経営大学院大学 | 経営研究科 経営専攻 | 経営学修士(専門職) | 1050 |
私立 | 〃 | 〃 | 国際経営学修士(専門職) | 0 |
私立 | 事業構想大学院大学 | 事業構想研究科 事業構想専攻 | 事業構想修士(専門職) | 90 |
私立 | 大学院大学至善館 | イノベーション経営学術院 イノベーション経営専攻 | 経営修士(専門職) | 80 |
私立 | 中央大学大学院 | 戦略経営研究科 戦略経営専攻 | 経営修士(専門職) | 80 |
私立 | 東京理科大学大学院 | 経営学研究科 技術経営専攻 | 技術経営修士(専門職) | 80 |
私立 | 日本工業大学大学院 | 技術経営研究科 技術経営専攻 | 技術経営修士(専門職) | 30 |
私立 | 法政大学大学院 | イノベーション・マネジメント研究科 イノベーション・マネジメント専攻 | 経営管理修士(専門職) | 60 |
私立 | 〃 | 〃 | 経営情報修士(専門職) | 0 |
私立 | 明治大学大学院 | グローバル・ビジネス研究科 グローバル・ビジネス専攻 | 経営管理修士(専門職) | 85 |
私立 | 早稲田大学大学院 | 経営管理研究科 経営管理専攻 | 経営管理修士(専門職) | 255 |
私立 | 〃 | 〃 | ファイナンス修士(専門職) | 0 |
私立 | SBI大学院大学 | 経営管理研究科 アントレプレナー専攻 | 経営管理修士(専門職) | 60 |
私立 | 相模女子大学大学院 | 社会起業研究科 社会起業専攻 | 社会起業修士(専門職) | 30 |
私立 | 事業創造大学院大学 | 事業創造研究科 事業創造専攻 | 経営管理修士(専門職) | 80 |
私立 | 同志社大学大学院 | ビジネス研究科 ビジネス専攻 | ビジネス修士(専門職) | 30 |
私立 | 立命館大学大学院 | 経営管理研究科 経営管理専攻 | 経営修士(専門職) | 80 |
私立 | 関西学院大学大学院 | 経営戦略研究科 経営戦略専攻 | 経営管理修士(専門職) | 100 |
株立 | ビジネス・ブレークスルー大学大学院 | 経営学研究科 経営管理専攻 | 経営管理修士(専門職) | 200 |
専門職大学院は5年ごとに認証評価を受け、教育の質を維持する必要がある
専門職大学院を置く大学は、「当該専門職大学院の教育課程、教員組織等その他教育研究活動の状況について、5年以内ごとに認証評価を受けなければならない」(学校教育法第109条第3項・学校教育法施行令第40条)と定められています。公益財団法人大学基準協会と一般社団法人ABEST21の2つの機関がそのチェックの役割を担っています。認証評価の結果はホームページで確認することができるのでMBA選びの参考になります。そのなかでも経営系専門職大学院基準は、以下の8つの大項目で構成されています。
1 使命・目的・戦略
2 教育内容・方法・成果
(1) 教育課程・教育内容/(2) 教育方法/(3) 成果
3 教員・教員組織
4 学生の受け入れ
5 学生支援
6 教育研究等環境
7 管理運営
8 点検・評価、情報公開
例えば、公益財団法人大学基準協会では国内最大の専門職大学院である「グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻」に対する認証評価結果を公表しています。結果は「適合」でしたが、付している意見は手厳しいです。人気大学院ゆえの成長痛と言えばそれまでかもしれないが、担当者は学生に見えないところで苦労していることがうかがえます。

①公益財団法人大学基準協会
https://www.juaa.or.jp/search/index.php?page=1#search_area
②一般社団法人ABEST21
専門職大学院制度の見直しと DBA の創設を提言する調査も
日本学術会議経営学委員会経営学大学院教育のあり方検討分科会では審議結果を取りまとめ公表しました。そのなかで課題が指摘されています。①欧米に比して規模が小さいため幅広い領域で多様な教育の推進が難しいこと、②産業界等との連携不足で大学院教育の価値を十分伝え切れていないこと、③外国語で行う講義が少ないなどグローバル化への対応が遅れていること、④制度面で高度専門職業人養成の位置付けが不明確であること、⑤経営学大学院同士の連携ネットワークが脆弱で、国内経営学大学院全体で課題解決を組織的に取り組む体制がないことの5つです。
まとめとしての提言としては「現行の専門職大学院制度や高度専門職業人教育を抜本的に見直し、欧米のように研究者養成大学院と高度専門職業人養成大学院に再整理する必要がある」としています。
欧米の有力ビジネススクールは、MBA プログラム修了生のために、さらに高度な教育を行う博士課程を DBA (Doctor of Business Administration)の名の下に併設している。DBA は当該ビジネススクールの研究力を高め、知的資産を増やし、引いては教育の質を高める効果を生んでいる。
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf23/siryo243-5-3.pdf
研究者養成を主目的とする伝統的な博士課程とは別な学位課程として、高度専門職業人養成に特化し、現行の専門職大学院修了者も受け入れ博士の学位に導く、新たな専門職博士課程 DBA の創設が必要である。併せて、能動的な学習を基本に据える方向で、現行の専門職大学院制度や高度専門職業人教育を抜本的に見直し、欧米のように研究者養成大学院と高度専門職業人養成大学院に再整理する必要がある。
<参考資料>
文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senmonshoku/index.htm
専門職大学院設置基準
https://www.kyoto-u.ac.jp/uni_int/kitei/reiki_honbun/w002RG00000951.html#l000000000
この記事へのコメントはありません。